
暖かくなると、どこか体がだるく強い眠気に襲われることがある。いわゆる「春困(春の倦怠感)」だ。この言葉が存在するだけで、多くの人が同じ不調を経験していることがうかがえる。
韓国の国立国語院は、春困を季節の変化に体が順応できないことが原因だと説明している。そのため、コーヒーでカフェインの力を借りて眠気を払おうとすることが多い。しかし、その覚醒が夜まで続けば、かえって眠りを妨げる不眠につながることもある。
春は、眠気を振り払おうとする努力と眠りにつこうとする努力が入り混じる季節だ。その意味で、不眠対策の音楽と春眠対策の音楽を用意した。バッハの「ゴルトベルク変奏曲」とハイドンの「交響曲『驚愕』」である。
バッハ : 「ゴルトベルク変奏曲, BWV 988」
タイトルの「ゴルトベルク」は演奏者の名前だ。若き演奏家ヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルクが不眠に悩む貴族のために夜ごと演奏したという話から名付けられたとされる。その貴族はロシア駐在のザクセン大使、ヘルマン・カール・フォン・カイザーリンクだった。
この貴族はバッハが暮らしたライプツィヒに滞在するたびにバッハを呼んで演奏を聴いたという。ある日、こう頼んだと伝わる。「眠れない夜に聴けるように、心を慰める曲を書いてくれ」この要請を受けて1741年に作品が生まれ、バッハには金貨が詰まった金杯が報酬として贈られたという話が残る。
ただし、この話の真偽は確かではない。バッハの伝記作家ヨハン・ニコラウス・フォルケルが1802年に著した『ヨハン・ゼバスティアン・バッハの生涯、芸術、作品について』に同様の記述があるが、これはバッハ没後50年にまとめられ、息子たちの語りを基に構成されたとされるため、学界では誇張や神話的要素が混ざっていると見なされている。
バッハの「ゴルトベルク変奏曲」は演奏時間も非常に長い。全曲を通して演奏すると、速ければ40分、ゆっくりだと80分近くかかることもある。演奏者の解釈によって長さが大きく変わるため一概には言えないが、なぜこれほど長いのかという問いに対する答えはある。
楽譜の構成を見ると、バッハはまず歌を意味する「アリア」を提示し、それを30に及ぶ変奏で展開し、最後に再びアリアを演奏して締めくくる。
「長すぎるクラシック音楽だから、聴いているうちに自然に眠ってしまうのではないか」と思うかもしれない。確かにそれは間違っていない。むしろ長尺ゆえに深い眠りを誘う効果があると評価する向きもある。
バッハの曲と対照的に、ハイドンは眠りを吹き飛ばす音楽を書いた。特に演奏会で居眠りする聴衆を驚かせる曲として知られているのが「交響曲『驚愕』」である。
全4楽章のこの作品の中でも第2楽章は穏やかに始まる。まるで何事も起きないかのように静かに流れる。
ところが突然オーケストラが大きな一撃を鳴らす。その衝撃は音源では30秒のあたりに相当する。この短い一発があるために交響曲は「驚愕」と名付けられた。知っていても驚かされる、ハイドンならではのユーモアが効いた場面だ。
私の記憶の「驚愕」はこうだ。公演でその驚きの瞬間を期待して目を見開いて聴いていたところ、隣の客が「アッ!」と声を上げ、それにつづいて会場全体が笑いに包まれたことがある。
みなさんの記憶にある春の眠気と不眠はどのようなものだろうか。「ゴルトベルク変奏曲」と「交響曲『驚愕』」、すなわち不眠と春困のための二つの選曲が、クラシックを身近にするきっかけになれば幸いだ。
文 · ユ・シネ – クラシック音楽作家
著書: 「ロマンス・イン・クラシック」、 「ベートーヴェン抜きでクラシック」
ピアノ専攻後、クラシック専門記者やKBSのクラシック番組の音楽コーディネーターを務め、現在は講演とブックトークを中心に活動している。















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